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大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)75号 判決

原告 西島裕楽

被告 下村忠男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告は、訴外島本町に対し、金一億九、八六六万八、七一〇円を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因事実

(一)  原告は、島本町の住民であり、被告は、島本町長である。

(二)  島本町は、昭和五三年四月二二日、訴外本郷公夫から大阪府三島郡島本町二丁目二五九番三の土地(以下同所の土地を地番のみで略称する)を一平方メートルあたり金八万一、六七四円総額金二、一六〇万三、五八九円で、同年四月二七日、訴外大阪開発株式会社(以下大阪開発という)から二五九番一、二五九番七、二五九番八、二六〇番一、二六〇番二を一平方メートルあたり金七万五、四五五円総額金一億五、六七七万三、六〇八円で、同年五月一〇日、訴外谷口シゲノから二五九番一一を一平方メートルあたり金七万一、〇八七円総額金一一七万一、五一三円で買い受け(以下右土地の売買を本件売買という)、その旨の登記を経由した。

本件売買は、訴外財団法人島本町開発協会(以下開発協会という)が島本町を代理して行つた。

(三)  本件売買は、次のとおり違法である。

1 島本町の昭和五三年度予算には、本件売買の代金を支出すべき項目はなく、また、本件売買は、町議会にはかることなく行われた。

したがつて、本件売買とその代金の支払は、地方自治法(以下自治法という)二三二条の四に違反する。

2 市町村は、その事務を処理するにあたつては、議会の議決を経て基本構想を定めなければならない(自治法二条五項)ところ、島本町は、本件売買当時、基本構想を定めていなかつた。

したがつて、本件売買による土地の取得は、自治法二条五項、都市計画法(以下都計法という)一五条三項に違反する。また、本件売買は、島本町の都市計画にも定められていない場所に児童公園を設けるためになされたものであつて、この点でも違法である。

3 本件売買のうち、大阪開発から買い受けた二五九番六(一二二・三一平方メートル)は、実在しない。そうすると、実在しない土地を買い受けて金九二二万円(一平方メートルあたり金七万五、四五五円)を違法に支出したことになる。

(四)  本件売買は、被告が島本町長として、違法であることを知りながら、又は過失によつてこれを知らずしてしたものである。

(五)  島本町は、被告がした違法な本件売買により、本件売買代金相当額金一億七、九五四万八、七一〇円と、これに対する少くとも昭和五三年五月から昭和五四年一〇月までの一八か月間の年利七・一パーセントの割合による利息相当損害金一、九一二万円、合計金一億九、八六六万八、七一〇円の損害を受けた。

(六)  原告は、昭和五三年一〇月一五日付で島本町監査委員に対し島本町が被つた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求したが、同監査委員は理由がないとして、同年一二月七日付でその旨を原告に通知した。

(七)  結論

原告は、自治法二四二条の二第一項四号に基づき、島本町に代位して、被告に対し、右損害金一億九、八六六万八、七一〇円を島本町に支払うよう求める。

二  本件請求の原因事実に対する認否及び主張

(一)  認否

1 請求原因(一)の事実は認める。

2 同(二)のうち、本件売買が開発協会により島本町名義で行われたことは認めるが、本件売買の代金は、開発協会が支出しており、実際の買主は開発協会であつて、島本町ではない。

3 同(三)の主張は争う。但し、島本町の昭和五三年度予算に本件土地の代金を支出する項目がないこと、島本町が自治法二条五項の基本構想を定めていなかつたこと、以上の事実は認める。

二五九番六は、実在していないから、開発協会も、島本町も買収の対象としていない。もつとも、二五九番六は、登記簿上存在しており、訴外田中三次郎及びその相続人訴外田中三喜男から固定資産税を徴してきた関係上、島本町は、田中三喜男から寄附を受けた。

4 同(四)の事実は否認する。

5 同(五)の損害は争う。本件売買の代金は、すべて開発協会が支出しており、島本町に損害が生ずることはあり得ない。

(二)  主張

1 開発協会は、昭和四四年一一月、民間の金融機関から資金を調達して、予算等の制約を受けずに弾力的、迅速に買収交渉ができることなどから、地価の高騰による公共用地取得の困難性を打開するために、民法三四条の公益法人として設立されたものである。したがつて、島本町と開発協会が密接な関係にあるため、本件売買が被告の意思に沿つたものであつたとしても、島本町と開発協会は別個独立の法人であり、被告は、開発協会の代表者でもないから、島本町ないし被告が、本件売買に関し、責任を追及されるいわれはない。

2 島本町は、自治法二条五項にいう基本構想を定めていなかつたが、右基本構想は、あくまで当該市町村における施策の大網的な計画ないし構想であるうえ、都計法一五条三項は、基本構想が定められている場合には、都市計画はそれに即したものでなければならないことを規定したにすぎないから、基本構想がないことは、それだけで、市町村の処理した事務を違法とするものではない。

3 島本町は、本件売買の対象土地(以下本件土地という)を島本都市計画公園事業用地として、次のとおり開発協会から取得した。すなわち、

島本町は、本件土地のうち、一、九〇五・六八五平方メートルについて、昭和五四年一一月二一日、一般会計補正予算として議会の議決を経た後、昭和五五年二月二〇日、金一億六、八三八万九、八一五円で買い受け、残りの四五三・一〇三平方メートルについて、昭和五六年三月三〇日、一般会計補正予算として同様の議決を経た後、同月三一日、金四、四三六万八、〇三七円で買い受けた。

そして、島本町は、島本都市計画公園事業について、都計法所定の手続や都市計画決定を経て、昭和五五年二月一日、大阪府知事の事業認定を受けた。そして、その告示もされている。

三  被告の主張に対する反論

(一)  仮に、本件売買の当事者が開発協会であつたとしても、本件売買については、昭和五三年度の開発協会の事業計画にその定めがなく、開発協会の予算に計上されていないから、本件売買は無権代理行為であつて、無効、違法というほかない。したがつて、これに続く島本町の本件土地の買受けも違法であつて、島本町は、これにより前記のとおり本件売買の代金相当額の損害を受けた。

開発協会が右のような違法行為をしたのは、被告が、長期間にわたつて自治法二四三条の三に定める開発協会の毎事業年度の経営状況を説明する書類の作成を怠つて議会に全く報告せず、また、自治法二二一条による予算の執行に関する調査権を行使しなかつたために必要な措置を講じることができなかつたことによるものである。

したがつて、被告は、自治法二四三条の三、二二一条の定める職務を怠たり、右損害を与えたものとして、これを賠償する義務がある。

(二)  本件売買の一平方メートルあたりの価格は、平均金七万六、一二二円であり、昭和五五年二月に島本町が開発協会から買い受けたときの一平方メートルあたりの価格は、金八万八、三六二円であつた。

ところが、本件土地の主要部分である大阪開発の土地が原所有者である田中三次郎又は田中三喜男から取得された当時の一平方メートルあたりの価格は、金五万九、一〇六円であつた。

被告は、自治法二条一三項により、島本町の事務を処理するにあたつては、最少の経費で最大の効果をあげるようにする義務があるところ、被告は、これを怠り、原所有者らから直接本件土地を取得しなかつたことにより、島本町に損害を与えたのであるから、これを賠償する義務がある。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  当事者間に争いのない事実

次の事実は当事者間に争いがない。

(一)  原告は、島本町の住民であり、被告は、島本町長である。

(二)  島本町名義で、本件売買の契約がされ、その旨の登記が経由された。

(三)  島本町の昭和五三年度予算には、本件売買の代金を支出する項目がなかつた。

(四)  島本町は、自治法二条五項の基本構想を定めていなかつた。

(五)  原告は、昭和五三年一〇月一五日付で島本町監査委員に対し、本件売買が違法であつて、これにより島本町が損害を受けたから、その損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求したが、同監査委員は、理由がないとして同年一二月七日付でその旨を原告に通知した。

二  本件売買契約の当事者について

(一)  右争いがない事実や成立に争いがない甲第一〇号証、同第一三ないし第一五号証、同第一七号証、乙第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証、同第五号証の一、二、同第六、七号証、同第四二号証、証人村田匡の証言によつて成立が認められる同第二九号証、証人豊田雅、同西嶋寅三、同村田匡の各証言、被告本人尋問の結果によると、次の事実が認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

1  島本町は、昭和五〇年ころから、部落解放同盟島本支部より、島本町広瀬二丁目付近に児童公園を作るよう要求を受けていたところ、昭和五三年四月ころ、大阪開発から、大阪開発が宅地造成をするために買い入れていた二九五番一、二九五番七、二九五番八、二六〇番一、二六〇番二の買収方の要請を受け、検討の結果、隣接の本郷公夫所有の二五九番三、谷口シゲノ所有の二五九番一一を合わせて買収し、都市計画公園用地とすることとした。

2  そこで、島本町は、昭和五三年四月一二日付で開発協会に対し本件土地の買収の依頼文書を出し、同月二一日、開発協会と本件土地の買収に関する委任契約を結んだ。

3  右委任契約は、買収の交渉、契約の締結、代金の支払等を開発協会が行い(一条)、登記は土地所有者から島本町に直接経由することとし(五、六条)、所有権も、原則として土地所有者から島本町へ直接移転させることを約し(七条)、島本町が、昭和五五年三月三一日限り、土地の買収等に要した費用、資金の利息等を支払うことを約束している(八条)。

4  開発協会は、昭和五三年四月二二日には本郷公夫と、同月二七日には大阪開発と、同年五月一〇日には谷口シゲノと、いずれも島本町名義で島本町の公印を使用してそれぞれ売買契約を締結し、そのころ、右各所有者から島本町へ直接移転登記手続がされた。

5  開発協会は、本郷公夫に対しては昭和五三年四月二四日と同月二七日に合計金二、一六〇万三、五八九円を、大阪開発に対しては、同月二八日と同年五月一〇日に合計金一億五、六七七万三、六〇八円を、谷口シゲノに対しては同月一八日に金一一七万一、五一三円をそれぞれ支払つたが、これら売買代金の支払は、大和銀行からの融資を受けてされた。

6  島本町は、昭和五五年二月二〇日、本件土地のうち一、九〇五・六八五平方メートルを金一億六、八三八万九、八一五円で、昭和五六年三月三一日、残りの四五三・一〇三平方メートルを金四、四三六万八、〇三七万円で、それぞれ買い受ける契約を開発協会と締結し、そのころ、開発協会に対し右金員を支払つた。

7  二五九番六は、登記簿上存在していたが、地籍図(乙第二〇号証)にはなく、所有者である田中三喜男自身その所在を明らかにすることができなかつたので、開発協会が大阪開発から買い受ける物件中には、含まれていなかつた。したがつて、島本町と開発協会との売買にも、入つていない。

(二)  右認定の事実によると、本件売買の交渉、契約の締結等の諸手続はすべて開発協会によつてされ、代金の支出も開発協会からされているが、これは開発協会が前記島本町との委任契約に従つてしたものであり、島本町は、右委任契約により、開発協会に対し、島本町を代理して本件土地を買い入れ、島本町名義で本件土地の売買契約を締結する権限をも与えられた結果、開発協会が右権限に基づいて本件売買の契約を締結したとしなければならない。そして、開発協会による代金の支払は、島本町の委任による立替払いであり、これによつて、島本町は、委任契約に基づき、開発協会に対して立替金等の償還義務を負うことになつた。もつとも、島本町と開発協会とは、昭和五五年二月二〇日と昭和五六年三月三一日に本件土地の売買契約を締結しているが、これは、開発協会により先行取得された公共用地を島本町が買い受けるという形式をとることによつて、国等から本件土地の取得につき補助金を受けるためにされたものであるから、本件売買の当事者が島本町であることの認定を左右するものではない。

(三)  まとめ

したがつて、島本町の委任を受けた開発協会がした本件売買の当事者は、島本町であるとしなければならない。

三  島本町の昭和五三年度の予算に、本件土地の取得費が計上されていなかつたことは、当事者間に争いがないから、本件売買は、予算に基づかない支出負担行為となる。しかし、この支出負担行為が、自治法二三二条の三に違反して違法であるかどうかは、島本町が、現実に公金を支出した時点をとらえて判断すれば足りる。

四  島本町が、自治法二条五項の基本構想を定めていなかつたことは当事者間に争いがない。

ところで、同項が基本構想を定めることを要求している趣旨は、めまぐるしく変動していく今日の社会において、市町村が真に地域住民の負託に応えた行政を行うには、首長が、住民の意思を反映した議会と協同して、地域社会の特性に応じ、長期的展望で市町村の将来像を描き、これを達成するための施策の大網を定め、これに従つてその事務を処理することが必要である点にある。

そうすると、同項は、行政のあるべき基本理念ないし基本姿勢を示すにとどまり、これを定めずに市町村の事務が処理され、そのために議会ひいては住民の意思に反する結果を招いたとしても、これを定めずに処理された事務を違法とするものではないといわなければならない。

そして、都計法一五条三項は、市町村に基本構想がある場合には、その定める都市計画がこれに即していなければならないという当然の事理を注意的に規定したにとどまると解するのが相当である。

そうすると、島本町が基本構想を定めていなかつたことは、本件売買の違法事由にはならない。

五  本件売買による損害について

原告は、島本町が昭和五三年に、本件売買代金を支払つたから、本件売買により島本町が損害を受けたと主張する。

しかし、開発協会が本件売買代金を立替えて支払つたことは前記認定のとおりであつて、島本町は、昭和五三年度中には、本件売買に関し公金を支出していないのであるから、被告が、島本町に対し違法な公金の支出を理由とする損害を賠償する理由は、全くない。そして、このことは、開発協会が受任していた本件売買について、開発協会の昭和五三年度の事業計画に含まれておらず、その予算が計上されていなかつたことや原告が主張する議会の報告や調査権の行使を被告が怠つたことによつて左右されないのである。

六  本件土地代金に関する公金の支出について

(一)  前掲乙第二九号証、同第四二号証によると、島本町は、開発協会との間で本件土地について売買契約を締結し、昭和五五年二月二二日ころ、金一億六、八三八万九、八一五円を、昭和五六年四月三〇日ころ、金四、四三六万八、〇三七円を開発協会に対し支出したことが認められるから、さらに右公金の支出が違法であるかどうかについて検討する。

(二)  前記争いがない事実や認定事実、前掲乙第二九号証、同第四二号証、成立に争いがない乙第一〇ないし第一八号証、同第二四、二五号証、同第二七号証、同第三四ないし第三六号証、同第五二号証、原告本人尋問の結果によつて成立が認められる甲第七、八号証、当裁判所が真正に作成されたものと認める乙第三七ないし第三九号証、証人豊田雅、同山田泰造、同西嶋寅三、同村田匡の各証言、被告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

1  開発協会は、昭和四四年、島本町の公共施設整備に必要な土地の取得等の事業を行う目的で、民法三四条の公益法人として設立された。

開発協会の利点は、予算制度等の制約を受けることなく、民間の金融機関から資金を調達するなどして買収の時機を失することなく、弾力的、迅速な買収交渉を行つて公共用地を確保することができ、さらに、開発協会によつて確保、先行取得された土地を、財政措置を講ずることができるようになつた時点で、地方自治体が買収する形をとることにより、公共用地取得費に国等からの補助金を受けることができることなどにある。

2  島本町は、本件土地により都市計画公園事業を行うことを計画し、昭和五三年五月二二日に開催された島本町都市計画審議会にかけて島本町都市計画変更(本件土地を都市計画公園に追加する等の内容)の審議を経たうえ、都計法二一条二項、一七条一項により、関係図書を公衆の縦覧に供するとともに、昭和五三年六月一日付で大阪府知事に対し都市計画変更の承認の申請をした。

同知事は、都市計画地方審議会の議を経て、同年七月一一日付でこれを承認した。そこで島本町は、島本町都市計画の変更を決定して同月二〇日付でその旨告示をするとともに、同知事に対し関係図書の写しを送付した。同知事は、都計法二一条二項、二〇条二項により、これを公衆の縦覧に供した。

3  島本町は、本件土地のうち、一、九〇五、六八五平方メートルの代金の支出については、昭和五四年一一月二一日、昭和五四年度一般会計補正予算として、残りの四五三・一〇三平方メートルの代金の支出については、昭和五六年三月三〇日、昭和五五年度一般会計補正予算として、それぞれ議会の議決を経たうえ、これを支出した。

4  本件土地は、それぞれ隣接して一団の土地となり、住宅地域にある。二五九番三、二五九番七、二五九番一一は、地目、現況とも宅地であるが、その余の土地も、地目は田であるが、現況は宅地ないし未利用の空地である。

5  島本町は、本件土地代金の支出をするにあたり、次のとおりの鑑定を徴した。すなわち、

三菱信託銀行は、二五九番三、二五九番一一の鑑定をし、一平方メートルあたりの価格を金八万八、五〇〇円と評価した。

大和銀行は、二五九番三、二五九番一一(前者の土地という)を一平方メートルあたり金九万円、二六〇番一、二六〇番二(後者の土地という)を一平方メートルあたり金八万六、〇〇〇円と評価した。後者の土地は、地目が田であるが、これを宅地として標準価格を決めるとともに、道路より低く、盛土、整地等が必要な点を減価要因として、前者の土地より低く評価したものである。

東洋信託銀行は、前者の土地の一平方メートルあたりの価格を金八万八、四〇〇円、後者の土地の一平方メートルあたりの価格を金八万五、七〇〇円と評価した。後者の土地を低く評価したのは、宅地見込地として熟成度は高いが、道路より低い点を減価要因としたためである。

6  なお、田中三次郎が二五九番一を訴外関西産業株式会社(大阪開発の前所有者)に売却したときの一平方メートルあたりの価格は金六万〇、六〇六円であり、田中三喜男が後者の土地を同訴外会社に売却した時の価格も同様であつた。

また、島本町が予算に基づき支出した額は、本件土地のうち一、九〇五・六八五平方メートルについては昭和五五年二月ころに一平方メートルあたり金八万八、三六二円、残りの四五三・一〇三平方メートルについては昭和五六年四月ころに一平方メートルあたり金九万七、九二〇円であつた。

(三)  右認定の事実によると、次のことが結論づけられる。

1  島本町から開発協会への公金の支出は、売買契約に基づく売買代金の支払ではなく、本件土地取得に関する島本町と開発協会との間の委任契約(乙第七号証)に基づく立替金の支払いである。

2  島本町は、昭和五三年中に予算に基づかない支出負担行為をしたが、その後、都計法所定の手続がされて本件土地を都市計画公園とする島本町都市計画の変更がされ、議会の議決を経て予算措置も講ぜられたことにより、予算に基づかない支出負担行為の違法性が治癒されたというべきである。

3  島本町が本件土地に関して支出した金額(一平方メートルあたり金八万八、三六二円又は金九万七、九二〇円)は、鑑定の結果(一平方メートルあたり金八万六、〇〇〇円ないし金九万円)に照らして不相当とはいえない。なお、島本町の取得価格である一平方メートルあたり金九万七、九二〇円というのは、鑑定の時点よりも一年以上後であり、その上昇率は一〇・八パーセントであつて、相当の範囲内の価格の上昇として是認することができる。

また、原告は、大阪開発の土地(二五九番一、二五九番七、二五九番八、二六〇番一、二六〇番二)の取得に関し、原所有者(田中三次郎又は田中三喜男)から直接取得すれば、安価で取得できたと主張する。しかし、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、島本町が原所有者から右土地を直接取得できる状況にあつたかどうかは明らかではないし、島本町の本件土地の取得価格が時価相当である以上、原所有者から取得しなかつたことが違法であるとするわけにはいかない。

(四)  また、島本町が、開発協会に委任して本件土地の所有権を取得し登記を得ながら、その代金を開発協会に立替えて支払わせ、その後開発協会から島本町が売買により取得した形式をとつて開発協会が取得したことに伴う不動産取得税を回避し、補助金の取得を容易にするための形式を整えようとする一方で、予算に基づかない支出負担行為をしたなど、本件土地の取得に関する一連の行為は、島本町が、開発協会と島本町とが別人格であることをいいことに、開発協会をうまく利用したものと評さざるを得ないが、島本町は、その後、本件土地取得に関し、都計法所定の手続を踏んで本件土地を都市計画公園とする島本町都市計画の変更をし、議会の議決を経た予算措置を講じてその代金を支出したし、これにより支出された額も鑑定の結果に照らして相当である点からして、島本町の本件土地取得を違法とすべき理由はない。

多くの地方自治体では、公共用地を取得するために別人格の土地開発協会を設立し、土地開発協会をして公共用地に適当な土地を適正価格で迅速に取得させることが行われていたが、これは、国等の補助金との関係でやむを得ないものとされていた(証人西嶋寅三、同村田匡の証言による)。そうすると、島本町が、本件土地の取得について開発協会を利用したことを問責することは、酷であるし、開発協会が島本町のダミーであると速断することも無理である。

なお、原告は、二五九番六が実在しないのに島本町が買い受けたと主張するが、前に認定したとおり、開発協会も島本町も、二五九番六を買い受けていないのであるから、二五九番六に対し、違法に公金が支出されたとすることは、その前提を欠き失当である。もつとも、二五九番六の所有者が、本件売買の対象地の一部が二五九番六であるとその所有権を主張するおそれがあるが、この点は、島本町が、田中三喜男から二五九番六の寄附を受けているから、そのおそれは、解消された(乙第三二号証参照)。

(五)  まとめ

島本町の本件土地に関する公金の支出を違法とすることはできない。

五  むすび

以上の次第で、原告の本件請求は、理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 古崎慶長 上原茂行 浅香紀久雄)

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